ジャズの名盤・名作をご紹介

ジャズの名盤探検隊

Impulse!名盤 サン・ラー Sun Ra - Astro Black (1973)

Sun Ra - Astro Black (1973)

サン・ラー|アストロ・ブラック

Genre:ジャズ
Style:スペース・ジャズ
Recording:1972
Release:1973
Label:Impulse!
Danny Davis, Marshall Allen, Sun Ra, Danny Thompson, Ronnie Boykins, Eloe Omoe, Pat Patrick, Atakatun, Chiea, Odun, Tommy Hunter, John Gilmore, Charles Stephens, Akh Tal Ebah, Lamont McClamb, Alzo Wright, June Tyson, Ruth Wright

「Astro Black」は、アメリカのジャズ・ミュージシャンであるサン・ラー(Sun Ra)が1973年にリリースしたアルバムであり、彼の宇宙的な音楽スタイルとテーマが色濃く反映された作品です。サン・ラーは、その独自の音楽スタイルであるスペース・ジャズとアフロフューチャリズムを駆使し、ジャズの伝統を超えた新しいサウンドを創造しました。「Astro Black」は、1973年に名門レーベルであるインパルス・レコード(Impulse! Records)からリリースされました。インパルス・レコードは、ジョン・コルトレーンやチャールズ・ミンガス、アーチー・シェップなど、多くの革新的なジャズアーティストを抱えるレーベルとして知られており、サン・ラーのアルバムがこのレーベルからリリースされたことは、彼の音楽が高く評価されていた証拠です。

「Astro Black」には、"Astro Black"(10:50)、"Discipline '99'"(3:36)、"Hidden Spheres"(10:08)、"The Cosmo-Fire"(18:07)の4つのトラックが収録されています。"Astro Black"は、サン・ラーのスペース・ゴスペル・ジャズが炸裂する壮大な楽曲です。宇宙的なテーマと深い精神性を持ち、サン・ラーのアーティスティックなビジョンを象徴しています。エレクトロニクスとアコースティック楽器を駆使したこの曲は、サン・ラーの創造力を如実に示しています。"Discipline '99'"は、インターギャラクティックな雰囲気の漂うゆったりとしたナンバーで、サン・ラーの作曲技術とバンドの緻密な演奏が際立っています。ゆったりとしたテンポの中に繊細なアレンジが施され、リスナーを宇宙の旅へと誘います。"Hidden Spheres"は、ブラックファンクネスに溢れる楽曲で、反復するリズムとメロディの融合が印象的です。ファンクの要素が強調され、サン・ラーの多様な音楽性を垣間見ることができます。この曲は、アフリカのルーツと未来志向の融合を具現化しており、聴く者に強い印象を残します。"The Cosmo-Fire"は、アルバムのラストを飾るにふさわしいスペイシーフリージャズの大作です。フリージャズの即興性とスペース・ジャズの融合が見事に表現されており、壮大な音の旅が展開されます。このトラックは、アルバムのクライマックスとして、サン・ラーの音楽的探求を示しています。

このアルバムにおいて特筆すべきは、ベーシストのロニー・ボイキンス(Ronnie Boykins)の重要な演奏です。ボイキンスのミニマルなベースラインはアルバム全体を通じて堅実なリズムと深いグルーヴを提供し、各楽曲の基盤をしっかりと支えています。特に、「Hidden Spheres」や「The Cosmo-Fire」における彼の演奏は、サン・ラーの宇宙的なサウンドスケープに不可欠な要素となっており、楽曲に躍動感をもたらしています。

インパルス・レコードからのリリースは、サン・ラーの音楽キャリアにおいて大きな意義を持ちました。このレーベルは、革新的なアーティストの作品を広く紹介し、彼らの音楽的ビジョンを支持することで知られています。インパルス・レコードからのリリースにより、サン・ラーの音楽はより広範なオーディエンスに届き、その革新的なスタイルがさらに多くのリスナーに認知されました。しかし、サン・ラーとインパルスとの契約は長続きはしませんでした。その理由としては、サン・ラーの音楽が商業的な成功を収めることが難しかったことや、サン・ラーが自身の芸術的ビジョンを最優先に考えたため、レーベルの商業的期待と一致しなかったことなどが挙げられます。それでも、この短期間の契約によってリリースされた作品は、サン・ラーの音楽的評価を高め、彼の革新的なスタイルをより広範に知らしめる重要な機会となりました。

「Astro Black」は、どの曲もサン・ラーの独自のスタイルを反映しており、70年代前半の代表的名盤と言えます。このアルバムは、彼の音楽的探求を象徴する作品として、多くのジャズファンや音楽評論家から高く評価されています。さらに、2018年のレコードストアデイには、限定LPとして復刻されました。これは、オリジナルのリリースから数十年を経てもなお、サン・ラーの音楽が現代においても評価され続けている証拠です。この復刻は、サン・ラーの音楽を新たな世代のリスナーに届ける重要な役割を果たしました。サン・ラーの「Astro Black」は、その革新的な音楽スタイルと宇宙的なテーマにより、時代を超えて愛される名盤として位置づけられています。

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ジャズやブラジル音楽が好きです。ふーん、これはジャズなのか、という名盤から、うん、これはジャズじゃないね、という名盤まで。ご意見・ご感想などがあればX(旧Twitter)まで。@elenco

51分一本勝負 サン・ラー Sun Ra - I Roam The Cosmos (2015)

Sun Ra - I Roam The Cosmos (2015)

サン・ラー・アンド・ヒズ・ソーラー・アーケストラ|アイ・ローム・ザ・コスモス

Genre:ジャズ
Style:スペース・ジャズ
Recording:1972
Release:2015
Label:Art Yard
Sun Ra, June Tyson, Marshall Allen, Danny Davis, John Gilmore, Akh Tal Ebah, Kwame Hadi, Eloe Omoe, Danny Ray Thompson, James Jacson, Ronnie Boykins, Tommy Hunter, Harry Richards, Robert Underwood, Lex Humphries, Atakatune, Alzo Wright, Odun

Sun Raのライブ盤「I Roam The Cosmos」は、1972年にニューヨークのジャズ・クラブSlug's Saloonで演奏された録音で、2010年代中盤に突如として正規リリースされました。このアルバムは、長年にわたり未発表のままだったため、リリース当時に大きな話題となりました。特に、名高いDJで音楽プロデューサーのジャイルズ・ピーターソンもこのアルバムをフェイヴァリットの一つとして挙げたことで、さらに注目を集めました。正規リリースに際しては、音質の向上やリマスタリングが施され、現代のリスナーにも聴きやすい音質となっています。これにより、当時のライブの臨場感がより鮮明に再現されています。

「I Roam The Cosmos」は1972年に録音されて以来、長い間正式なリリースがなされていませんでした。しかし、2010年代中盤に正規リリースされると、Sun Raの再評価の波もあり、彼の音楽遺産の重要な一部として広く認識されるようになりました。

「I Roam The Cosmos」は、Sun Raの他の作品と比べて、たゆたうようなゆったりとした演奏が特徴です。このライブでは、彼の独自の「コスモス節」が存分に発揮されていますが、アヴァンギャルドな要素は控えめで、比較的多くのジャズファン層にアピールできる内容となっています。

Sun Raの特徴である宇宙的なテーマは、このライブでも健在です。彼の音楽哲学やビジョンが音楽を通じて聴き手に伝わります。宇宙的なサウンドスケープと哲学が融合し、独特の音楽体験を提供します。

即興演奏や複雑なリズムが抑えられ、柔らかく心地よいアプローチが中心となっています。これにより、アヴァンギャルドなジャズに馴染みのないリスナーでも楽しめる作品となっています。

例えば「Space Is The Place」はSun Raの代表作の一つであり、壮大なアヴァンギャルド・ジャズの要素が強いのに対し、「I Roam The Cosmos」はそのテーマに寄り添いながら、よりリラックスした音楽性を持っています。言わば「Space Is The Place」をチルアウトしたバージョンと表現できます。

このトラック(アルバム)は、極端に遅いテンポの「A Love Supreme」と捉えることも可能です。John Coltraneの「A Love Supreme」が持つスピリチュアルな要素が、Sun Raの宇宙的なビジョンと共鳴しているともいえるでしょう。演奏の中でコールアンドレスポンスが繰り返され、次第に宇宙との対話が増幅されていく様子は、深い霊的な体験を呼び起こします。

名高いDJで音楽プロデューサーのジャイルズ・ピーターソンも、「I Roam The Cosmos」をお気に入りの一つとして挙げています。ピーターソンはジャズ、ソウル、ファンクなど幅広いジャンルの音楽を紹介することで知られ、その推薦は多くの音楽ファンにとって重要な指標となります。彼がこのアルバムをフェイヴァリットに挙げたことにより、Sun Raの音楽が再評価され、特に新しい世代のリスナーに対してその魅力が広く伝わりました。 長らく埋もれていた音源が正規リリースされたことで、Sun Raの音楽遺産がさらに豊かになりました。新たな音楽ファン層にアプローチするきっかけとなり、彼の音楽が再評価されました。

「I Roam The Cosmos」は、51分に及ぶ一曲のみの構成となっています。この長尺のトラックの中で、ボーカルのコールアンドレスポンスが繰り返され、次第に宇宙との対話が増幅されていくようなイメージが喚起されます。Sun Raの演奏とアーケストラのインタープレイは、聴き手を宇宙的な旅へと誘い、深遠な音楽体験を提供します。このような構成により、アルバムは一貫したテーマとムードを持ち、独特の魅力を放っています。

また、このアルバムはSun Ra的なゴスペルとして捉えることもできます。彼の音楽には、ブラックミュージックとしてのスピリチュアリティが色濃く反映されており、その点でJohn Coltraneの「A Love Supreme」とも通じる部分があります。Sun Raの演奏が持つ精神性と宇宙的な視点が融合し、深い霊的な体験を提供します。

「I Roam The Cosmos」は、Sun Raの音楽の中でも特にリラックスした雰囲気を楽しめるライブ盤として、多くのジャズファンに親しまれる作品です。彼の入門盤としての性格も帯びていると言えるでしょう。おすすめです。

公式サイトに掲載されているライナーには以下のように書いてあります。

Sun Raの膨大なディスコグラフィーには、このタイトルへの言及は2つしかない。1つは1973年のカーネギーホールでの公演を収録したVoice of Americaのモノラルテープ、もう1つは1974年のハンターカレッジでの公演を収録したオーディエンステープである。この録音は明らかにサウンドボード録音ではなく、極端なステレオである。この宇宙ドラマは、June Tysonが「Astro Black」の歌詞を哀歌のような「Discipline 27-II」のグルーヴに乗せて朗読することから始まる。その後、Sun RaとJune Tysonのコールアンドレスポンスの朗読へと移り、Arkestraが1時間近くもだらだらとした「D27-II」のリズムを維持し、ホルンのコーラスがアクセントを添える。一人称で人格を切り替えるかのように、ラは宇宙哲学を唱え、啓蒙を呼び起こし、神話を語り、悲惨な予言を伝え、ジューン・タイソンがそれぞれの祈りをエコーし、ドラマチックに表現する。テープボックスのマーキングによると、このパフォーマンスは1972年7月、ローワーイーストサイドのジャズのメッカ、イースト3番街にあるスラッグス・サルーンで行われたもので、1960年代後半から70年代前半にかけて、ラとアーケストラは頻繁にオールナイトのセットを演奏していた。メンバーは、誰が現れるか、誰が楽器を演奏できるか(または上手にフェイク演奏できるか)、そしてバンドリーダーの予言によって変動した。これらの伝説的な夜は、荒々しく予測不可能で、しばしば悲惨で、芸術的な論争もなかったわけではない。これらの夜によって、サン・ラはニューヨークのジャズの常連客の注目を集め、大胆なショーマンシップに対する彼の評判が高まった。

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詩と間 ニューヨーク・アート・カルテット New York Art Quartet / s/t (1965)

New York Art Quartet / s/t (1965)

ニューヨーク・アート・カルテット - s/t

Genre:ジャズ
Style:フリー・ジャズ
Recording:1964
Release:1965
Label:ESP Disk
John Tchicai, Roswell Rudd, Milford Graves, Lewis Worrell, Amiri Baraka

ニューヨーク・アート・カルテットは、1964年にニューヨークで結成されたスーパーグループで、メンバーはそれぞれが卓越した技量を持ち、後にジャズ界の巨匠となる人物たちです。サックスのジョン・チカイ、トロンボーンのラズウェル・ラッド、ドラマーのミルフォード・グレイヴス、ベーシストのルイス・ウォレルが集まり、革新的なフリー・ジャズを演奏しました。ジョン・チカイは1962年にデンマークからニューヨークに移住し、フリー・ジャズの先駆者たちと共演し、ラズウェル・ラッドやミルフォード・グレイヴスもニューヨークのジャズシーンで活躍していたことから、自然な流れで結成されました。彼らは1964年のビル・ディクソンのジャズ・フェスティバルでデビューしました。

ニューヨーク・アート・カルテットの1stアルバムは1964年に録音され、ESP Diskからリリースされました。このアルバムには、詩人アミリ・バラカ(リロイ・ジョーンズ)の詩「Black Dada Nihilismus」が収録されており、革命的で挑戦的な内容となっています。アルバムは、フリー・ジャズの象徴として高く評価されており、彼らの音楽は従来のジャズの和声や進行を大胆に革新し、フリー・ジャズの枠を押し広げました。ジョン・チカイの先鋭的なサックスプレイ、ラズウェル・ラッドの力強いトロンボーン、ミルフォード・グレイヴスの独特でポリリズミックなリズム、そしてルイス・ウォレルのベースが一体となって、この独自の音楽体験を創り上げています。

ニューヨーク・アート・カルテットの音楽は、物理的な「間」ではなく、概念的な「間」を感じさせる演奏が特徴です。この「間」は、詩人アミリ・バラカの朗読と同列に扱われ、音楽が詩的な体験として感じられる点が特異です。彼らの音楽は、詩と音楽が融合し、感覚的に体験できる「詩」としての側面を持っています。これにより、彼らの音楽は他に類を見ない独自のサウンドを持ち、その表現力は聴く者に深い印象を与えます。

ニューヨーク・アート・カルテットは短命なグループでありながら、その影響力は非常に大きく、フリー・ジャズの発展に大きく貢献しました。彼らの音楽は、既成の音楽理論を覆し、他に類を見ない独自の音楽体験を提供しました。そのため、後にも先にも生じ得ない特異な存在として評価されています。彼らの即興演奏と表現力は、フリー・ジャズの新しい時代の幕開けを象徴し、多くの後続アーティストに影響を与え続けています。

彼らは、フリー・ジャズの進化期に生まれた特異なグループであり、その革新的なサウンドと演奏は、ジャズの歴史において重要な位置を占めています。彼らの音楽は、新しい時代の幕開けを象徴し、多くの後続アーティストに影響を与え続けています。彼らの音楽は、既成の枠にとらわれない自由な表現を追求し、フリー・ジャズの可能性を広げました。結成から1stアルバムのリリースに至るまで、カルテットは常に挑戦的であり、ジャズの新しい方向性を示しました。

このグループの短期間の活動は、その後のジャズシーンに大きな影響を与え、彼らの遺した音楽は今なお新鮮であり続けています。彼らの革新性と表現力は、ジャズの歴史において特異な存在として記憶され続けることでしょう。

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フリーの伝統と革新 ノア・ハワード Noah Howard / The Black Ark (1972)

Noah Howard / The Black Ark (1972)

ノア・ハワード - ザ・ブラック・アーク

Genre:ジャズ
Style:フリージャズ
Recording:1969
Release:1972
Label:Freedom
Noah Howard, Norris Jones, Juma, Mohammed Ali, Leslie Waldron, Arthur Doyle, Earl Cross

ノア・ハワードのアルバム「The Black Ark」は、1969年にニューヨークで録音され、1972年にリリースされた重要なフリー・ジャズ作品です。このアルバムには、アーサー・ドイル(テナーサックス)、アール・クロス(トランペット)、レスリー・ウォルドロン(ピアノ)、ノリス・ジョーンズ(ベース)、モハメド・アリ(ドラム)、ジュマ(コンガ)が参加しています。全曲ハワードの自作で、アグレッシブでスピリチュアルな演奏が特徴です。

このアルバムは、アラン・ベイツによって設立されたBlack Lion傘下のレーベルFreedomからリリースされました。1960年代後半から70年代にかけての多様化するジャズシーンに新たな生命力を吹き込んだこのレーベルは、ブラック・ミュージックやロフト・ジャズ、現代ジャズシーンに大きな影響を与えました。「The Black Ark」は、その活力と革新性を象徴する作品となっています。

「The Black Ark」の演奏は、アグレッシブかつパワフルなインタープレイと一貫したアフロ・グルーヴを特徴としています。ドラムやコンガのリズミカルでパーカッシヴなサウンドがスピリチュアリティを感じさせ、ドイルのテナーサックスはフリーキーなブロウが印象的です。クロスのブルージーでアブストラクトなトランペット、ウォルドロンのグルーヴィーなピアノも魅力的で、全体的に60年代ジャズのエッセンスを取り入れながらも独自のスタイルを確立しています。

トラック1「Domiabra」はリズミカルな演奏から徐々に白熱の展開へと進んでいきますが、フリージャズの文法はしっかりと守られています。トラック2「Ole Negro」はソロが交互に受け継がれていく点で、伝統的なジャズの感覚を感じさせます。このトラック・タイトルから連想されるのは、ジョン・コルトレーンと公民権運動です。トラック4「Queen Anne」はブルージーな要素を持つ、小曲としてアルバムの中で特異な存在となっています。

アルバムの白眉はトラック3「Mount Fuji」で、和を感じさせる短いテーマ部に続き、7重奏団の圧巻のインタープレイが展開されます。この楽曲では、ハワードと彼のバンドが、緊密なアンサンブルと自由な即興演奏を融合させ、聴く者を圧倒するパフォーマンスを披露しています。この楽曲のダイナミズムと感情の深さは特筆すべきものであり、アルバム全体のハイライトとなっています。

「Mount Fuji」を含むアルバムのトラックにおいて特徴的なことは、テーマから各パートのソロへと至り、再びテーマに戻るという展開が見られ、伝統的なジャズのイディオムを踏襲していることです。

ハワードのアルトサックスは、情熱的なフレージングからフリーキーな雄叫びまで多様な表現を見せ、バンド全体の演奏を引き締めています。ハワードのアルトと並んで、ドイルのテナー、クロスのトランペットの3管が絡まり合ってはそれぞれのベクトルを描く様は圧巻です。ハワードのアルトサックスは、情熱的でありながら奇抜な表現を駆使し、他のメンバーが自由奔放に演奏する中でも全体をまとめ上げる役割を果たしています。その剛柔の切り換えの的確さやスター性は光り輝いています。

「The Black Ark」は、ブラック・スピリチュアル派フリー・ジャズを示し、荒々しくも豊かな情感を湛えた演奏が堪能できます。混沌としたエネルギーと濃厚な情感が交錯し、聴く者に深い印象を残すこの作品は、フリー・ジャズのエッセンスを心ゆくまで味わうことができるでしょう。録音から数年後の1972年にリリースされたこのアルバムは、フリー・ジャズの中でも特に評価が高く、ハワードの作品の中でも重要な位置を占めています。

このアルバムを聴くことで、当時のジャズシーンの活力と革新性を感じることができます。「The Black Ark」は、ノア・ハワードの革新的な音楽アプローチとその時代のジャズシーンへの貢献を象徴する作品であり、今でもその重要性と影響力は色褪せることがありません。このアルバムは、ジャズという黒人音楽の伝統と革新の模索の上に成り立っていることを実感させてくれます。

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即興とノイズの実験性 高柳昌行 Masayuki Takayanagi / Dedicated To Mr. Tonoyama (2024)

高柳昌行 / Dedicated To Mr. Tonoyama (2024)

Masayuki Takayanagi - Dedicated To Mr. Tonoyama

Genre:ジャズ、即興音楽
Style:フリー・インプロヴィゼーション、ノイズ・ミュージック
Recording:1989
Release:2024
Label:Jinya Disc, 非売品

高柳昌行のアルバム「Dedicated To Mr. Tonoyama」は、1989年のライブ録音であり、俳優の殿山泰司に捧げられた作品です。高柳昌行は日本のフリージャズシーンの重要な人物であり、その独特のギター演奏と前衛的なアプローチで知られています。このアルバムは、彼の未発表音源の一つであり、その歴史的な価値と音楽的な重要性から注目されています。

殿山泰司は、日本の映画や舞台で活躍した名俳優であり、高柳とは個人的な交流があったと言われています。アルバムタイトルからもわかるように、このライブは故殿山泰司への敬意を込めて演奏されたものであり、その関係性が音楽に独特の情感を与えています。(実際、トラック3で弔意が述べられています。)

「Dedicated To Mr. Tonoyama」は、フリージャズの即興性と実験精神を存分に発揮した作品です。アルバム全体を貫くのは、即興とエレクトロニクスの実験的なノイズの塊です。高柳のギターは、従来の音楽の枠を超えたサウンドを生み出し、リスナーに深い印象を与えます。このノイズは、単なる音響的な混乱ではなく、計算された音の奔流であり、即興演奏の極致を体現しています。

さらに、時折現れる引き潮にも似た静寂さは、両チャンネルを通奏する電子音を思わせるノイズを一層引き立たせます。この静寂の瞬間は、緊張感を高め、ノイズの対比として機能することで、音楽のダイナミクスと深みを増しています。ライブ録音ならではの臨場感と緊張感も、このアルバムの魅力の一つです。

このアルバムは、高柳昌行の音楽キャリアの中でも特異な位置を占める作品です。まず、殿山泰司への敬意を表した個人的なオマージュとしての側面が強く、単なる音楽作品以上の意義を持っています。高柳の演奏に込められた感情や敬意が、音楽に独特の強度を与えています。高柳のフリージャズにおける実験精神と即興性が最大限に発揮された作品であり、その音楽的探求が極まった形で表現されています。ノイズと静寂の対比、計算された音の奔流は、彼の音楽スタイルの真髄を示しています。

さらに、このアルバムは単なるジャズ文脈のフリーインプロヴィゼーションにとどまらず、電子音やサンプリング(オルガンはサンプリング?)を用いることで、ノイズミュージックとしての可能性も提示しています。高柳は、音楽の枠を超えて新たな音響表現を模索し、その結果、従来のジャズや即興音楽の範疇に収まらない前衛的な音世界を創り出しています。このような試みは、彼の音楽キャリアにおける新たな挑戦と革新を象徴しており、リスナーに対しても新しい聴覚体験を提供します。

ライブ録音ならではの臨場感と緊張感があり、スタジオ録音では得られない一回限りの演奏のダイナミクスが感じられます。リスナーはその場の空気感を共有することができ、この一瞬の音楽の中に身を投じることができます。高柳の即興演奏は、その場のエネルギーと反応を取り込み、リアルタイムで音楽を創造していく過程を体験することができます。

歴史的価値も高いこのアルバムは、高柳昌行の未発表音源としての希少性と、それが発表された時代背景や音楽史における位置づけも重要です。このアルバムは、高柳の音楽キャリアとフリージャズの進化を理解する上で貴重な資料となります。高柳の音楽的探求と個人的な関係性が交差するこの作品は、彼の創造性と技術が結実した一つの到達点を示しており、音楽ファンや研究者にとっても大きな関心を集めています。

このように、「Dedicated To Mr. Tonoyama」は、高柳昌行の音楽キャリアの中で特異な位置を占める作品であり、彼の音楽的探求と個人的な関係性が交差する、深い意義を持つアルバムです。ノイズの塊と静寂の対比によって形成される音楽の中に、高柳の深い感情と殿山泰司への敬愛が感じられるでしょう。また、電子音やサンプリングを用いた試みが、エクスペリメンタルミュージックとしての新たな可能性を提示している点でも注目すべき作品です。このアルバムは、高柳昌行の創造性と革新性を象徴し、彼の音楽遺産の一部として、その独自性と価値を高めています。

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