革新と芸術性の頂点 パット・メセニー Pat Metheny / Speaking of Now (2002) の意義
パット・メセニー / スピーキング・オブ・ナウ
- Genre:現代ジャズ
- Style:フュージョン
- Recording:2001
- Release:2002
- Label:Warner Bros
- Pat Metheny, Steve Rodby, Lyle Mays, David Sholemson, David Oakes, Wally Dunbar, Antonio Sanchez, Rob Eaton, Andrew Felluss, Ted Jensen, David Samuels, Latifa, Cuong Vu, Carolyn Chrzan, Pete Karam, Richard Bona, Tom Sheehan
2002年のリリース直後、このアルバムはグラミー賞にてベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム賞を受賞しました。さらにフランスのヴィクトワール・デュ・ジャズ賞の年間アルバム賞、ドイツの賞レーベンディガ・ムジーク賞も獲得しています。このように、「Speaking of Now」は国内外で現代ジャズ界から最高の評価を受けた作品であり、メセニーのキャリアにおける頂点的作品の一つと位置づけられます。
この受賞は、単にアルバムの優れた音楽性が認められただけでなく、メセニーが現代ジャズの革新とその可能性の拡張に大きく貢献したことが評価された証しとも言えます。
具体的に見ていきますと、まずグループ編成の大胆な一新は、ジャズ・グループの在り方そのものに新たな地平を切り拓きました。ギター、ベース、ドラムといった主要楽器に加え、トランペット、サックス、各種打楽器、民族楽器など20種類以上の楽器が参加しています。これにより、ジャズのグループ・サウンドは未知の領域へと飛躍的に広がりました。
加えてメンバー自身がマルチ楽器奏者であったことから、即興演奏における自由度が格段に高まり、各パフォーマーの音楽的可能性が最大限に発揮されることになりました。民族楽器の多用もまた、ジャズにワールドミュージックの要素を大胆に取り込む新しい試みでした。
さらに録音・制作の面でも、スタジオ録音と即興演奏を巧みに融合させたプロダクション手法は、いわばジャズのスタジオ・ワークのあり方そのものを作り変える革新的な試みと言えるでしょう。
このように「Speaking of Now」は、編成、演奏アプローチ、音楽的資源の全ての側面において、ジャズに新たなる可能性と革新をもたらしました。そしてアルバム自体が一つの有機的な作品として鮮やかな統一性とコンセプチュアルな完成度を有していたことから、ジャズが芸術として持つべき深遠な価値と可能性をも体現する作品となったと評価されたのです。
多方面から高い評価を受け、数々の権威ある賞を獲得したことは、メセニーが単なるジャズ・ミュージシャンを超え、現代ジャズ界の革新とその芸術性の発展に偉大な足跡を残したアーティストであることを示す証しとなりました。「Speaking of Now」はメセニーの半世紀に及ぶキャリアの頂点の一つであり、同時に現代ジャズ史に残る不朽の名盤として長く語り継がれていくことになるでしょう。