音楽の枠を超える Milford Graves ミルフォード・グレイヴス Percussion Ensemble (1965) の誕生
Milford Graves Percussion Ensemble w/ Sunny Morgan
- Genre:ジャズ
- Style:フリー・スタイル、即興
- Release:1965
- Label:ESP Disk
- Milford Graves, Sunny Morgan
1960年代のニューヨークでは、音楽の新たな可能性を追求する前衛的なアーティストたちが集い、革新的な作品が次々と生み出されていました。その中でも特に注目を集めたのが、ミルフォード・グレイヴスの「Percussion Ensemble」です。この作品は、現代音楽やジャズ、そして音楽そのものの枠組みを超越し、原初の音の世界へと聴衆を誘う大胆な試みでした。
1941年にニューヨークのクイーンズにあるジャマイカ地区で生まれたグレイヴスは、幼少期から多様な音楽的影響を受けて育ちました。わずか3歳でドラムを始めた彼は、ラジオを通じてラテン音楽やアフロ・キューバン・ジャズのリズムに親しみ、コンガやティンバレスなどの打楽器も習得していきました。このような環境で育ったことが、彼の音楽に多大な影響を与えたことは間違いありません。
グレイヴスの音楽は、西洋の音楽だけでなく、ジャズ、アフリカ音楽、アジアの民族音楽など、多様なジャンルの音楽言語を自在に操ることができるようになっていきました。彼の音楽がジャンルを超越する独自の魅力に満ちていたのは、この幼少期の多様な経験が大きく影響していると考えられます。彼がジャマイカ地区で育んだ多文化的な背景が、彼の開かれた音楽的志向性を形成し、後に「Percussion Ensemble」という越境的な作品を生み出すきっかけとなったのです。
グレイヴス自身、早くから既存の西洋音楽の概念から離れ始め、ジャズ、アフリカ音楽、アジアの民族音楽から多大な影響を受けていました。彼は音楽の本質を掘り下げ、新たな地平を切り開こうとする先駆者として、作曲家の枠を超えて活動していました。そして1965年、その歩みの集大成ともいえる「Percussion Ensemble」が誕生します。
1960年代のニューヨークで活動したESP Diskは、アヴァンギャルド/フリージャズの先駆的なレーベルでした。サン・ラー、アルバート・アイラー、ファラオ・サンダースなどのアーティストがこのレーベルから作品を発表し、前衛的音楽シーンの最先端を行く役割を果たしていました。「Percussion Ensemble」がESP Diskからリリースされた背景には、グレイヴスの実験性とESP Diskの方向性が一致していたことが大きく影響しています。グレイヴスはジャズやアフリカ音楽の影響を取り入れ、西洋の音楽様式からの解放を目指していたため、ESP Diskとの相性は抜群だったのです。
この作品は、文字通り打楽器のみの編成で、楽譜も大まかなスケッチに過ぎません。無調のリズムと民族音楽的要素が渦巻く中で、ジャズの旗手サニー・モーガンの自由なインプロヴィゼーションが炸裂します。グレイヴスとモーガンの出会いによって、音楽はジャズの領域を飛び越え、原初の音の世界へと回帰しました。西洋と非西洋、作曲と即興演奏、理性と感性など、あらゆる二元論を打ち壊す原生的で生々しい音の景色が広がったのです。このかつてないプリミティブな音の祭典となった「Percussion Ensemble」は、音楽の未来に果てなき可能性を示した革命的作品と言えるでしょう。
こうして「Percussion Ensemble」は、前衛的音楽シーンにおいて重要な位置を占める作品として歴史に刻まれることとなりました。