ジャズの名盤・名作をご紹介

ジャズの名盤探検隊

ジャズとポストロックの融合による音楽的進化 ザ・シー・アンド・ケイク The Sea And Cake / Oui (2000)

The Sea And Cake / Oui (2000)

ザ・シー・アンド・ケイク / ウィ

Genre:ロック
Style:ポスト・ロック、シカゴ音響派
Recording:2000
Release:2000
Label:Thrill Jockey
Sam Prekop, Archer Prewitt, Eric Claridge, John McEntire

The Sea And Cakeのアルバム「Oui」は、2000年にリリースされた彼らの5枚目のスタジオアルバムであり、インディーロックとポストロックのシーンにおいて重要な作品とされています。このアルバムは、バンドの成熟した音楽性を示し、ジャズ、ポップ、エレクトロニカの要素を融合させた独自のサウンドが特徴です。リリース元は、シカゴのインディーズレーベル、Thrill Jockeyです。

「Oui」のサウンドは非常にメロディアスでリリカルです。サム・プレコップの柔らかいボーカルとアーチャー・プレウィットのギターが絶妙に調和し、ジョン・マッケンタイアの緻密なドラムとエレクトロニクスが楽曲に深みを加えています。特に、ジャズの即興性や複雑なリズムとポストロックの雰囲気が融合し、リスナーに新しい音楽体験を提供します。このアルバムには「Afternoon Speaker」や「All the Photos」、「The Colony Room」、「Everyday」などの楽曲が収録されており、詩的で抽象的な歌詞が特徴です。これらの曲は、リスナーにさまざまな解釈の余地を与えます。

「Oui」の楽曲は、エレクトロニカの要素が取り入れられており、シンセサイザーやエフェクトが楽曲に新鮮さを加えています。特に、「Afternoon Speaker」や「Seemingly」といった曲では、シンセサイザーのリフとエレクトロニクスが、アコースティックな楽器とシームレスに融合しています。このようなエレクトロニカの要素は、当時のインディーロックにおいても新鮮な試みでした。

サム・プレコップはThe Sea And Cakeの活動と並行してソロ作品もリリースしており、その音楽的アプローチは「Oui」にも大きな影響を与えています。プレコップのソロ作品はより内省的でアコースティックな要素が強い一方、メロディ作りや楽曲構成の手法は「Oui」にも反映されています。特に、彼の1999年のセルフタイトルアルバム「Sam Prekop」は、ソロとしての感性や技術が「Oui」の楽曲制作に新しいアイデアをもたらしたと言えます。ソロ作品で培われた感性や技術が、バンドの作品に新しい深みと洗練さを加えています。

「Oui」は2000年のリリース当時、多くの音楽評論家やファンから高評価を受けました。アルバムの洗練されたサウンドとバンドの成熟した音楽性が称賛され、インディーロックシーンにおいて重要な作品とみなされました。例えば、Pitchforkはアルバムを高く評価し、その滑らかで巧妙なアレンジメントを称賛しました。現在では、「Oui」はThe Sea And Cakeのディスコグラフィーの中でクラシックなアルバムとして認識され、時代を超えて愛される作品として再評価されています。特にエレクトロニカの要素や複雑なアレンジメントが新しい世代のリスナーやミュージシャンに影響を与え続けています。

現代においても「Oui」は、バンドの最も重要な作品の一つとして評価されています。リスナーは、このアルバムを通じてThe Sea And Cakeの音楽的進化と多様性を感じ取ることができます。また、ジョン・マッケンタイアのプロダクション技術と、サム・プレコップのソングライティングが絶妙に組み合わさることで、アルバム全体が一貫したトーンとムードを持つ完成度の高い作品となっています。

The Sea And Cakeの「Oui」は、メロディアスでリリカルなサウンド、ジャズとポストロックの融合、緻密なアレンジメントなど、多くの特徴を持つアルバムです。サム・プレコップのソロ活動からの影響も見られ、バンドの音楽に新しい深みを加えています。発売当時から現在まで高い評価を受け続けているこのアルバムは、インディーロックとポストロックのシーンにおける重要な作品として、音楽史に刻まれています。

@ 管理人
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ジャズやブラジル音楽が好きです。ふーん、これはジャズなのか、という名盤から、うん、これはジャズじゃないね、という名盤まで。ご意見・ご感想などがあればX(旧Twitter)まで。@elenco

シンガーズ・スリー, 石川晶 & フリーダム・ユニティ - Foliole No. 2 (1971)

シンガーズ・スリー & 石川晶 - Foliole No. 2 (1971)

SIngers 3, Akira Ishikawa & Freedom Unity - Foliole No. 2

Genre:ジャズ、ロック
Style:和ジャズ、ジャズ・ロック、スキャット
Recording:1970
Release:1971
Label:King Records
伊集加代子, 福田まゆみ, 藤村道子, 村岡健 (ts, ss), 鈴木弘(tb), 鈴木宏昌 (key), 稲葉国光 (b), 石川晶 (dr), 杉本喜代志 (g), 上田力 (arr)

和ジャズ・ドラマーの代名詞、石川晶がバックを務めるシンガーズ・スリーのデビュー・アルバム。石川晶しかり、このアルバムもジャズ・ロックと形容されますが、英国ジャズ、例えばジョン・サーマン「Morning Glory」に喩えるのもありかと。タイトル・トラック「Foliole No. 2」で聴ける杉本喜代志のソロなんて同アルバムのテリエ・リピダルを思わせたりもします。しかし、実は「Morning Glory」は73年なので、このアルバムはそれより3年近く早いのでした!そんなバックにパパパパ・コーラスの女性シンガーズが重なってくるんだから面白いこと請け合いです。

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サミ Sume - Sumut (1973)

Sume - Sumut

サミ|Sumut

Genre:サイケデリック、ロック、フォーク
Style:サイケ・ロック、パブ・ロック、プリ・パンク
Recording:1973
Release:1973
Label:Demos

グリーンランド人による旧宗主国デンマークへのポリティカルな内容をフィーチャーしたプロテスト・ソング集。サミはグリーンランド出身のメンバーによってデンマークで結成。アグレッシブでありながら、フォーキーかつパブロック的、いわば前パンク的な内容は、サイケ・ファン~パンク・ファンにまで受け入れられるのではないかと思います。全編グリーンランド語で歌われているので辺境系ともいえるでしょう。母国人によるデンマーク人の殺害を描いたジャケットがショッキング。

Amazon はおろかサブスクにも品揃えがないので、視聴は YouTube から。

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ブルーノ・メジャー Bruno Major - To Let A Good Thing Die (2020)

Bruno Major - To Let A Good Thing Die

ブルーノ・メジャー|トゥ・レット・ア・グッド・シング・トゥ・ダイ

Genre:ロック、ソウル
Style:SSW、ネオ・ソウル
Recording:2019
Release:2020
Label:July Records

UKのシンガー・ソングライター、ブルーノ・メジャーの2ndアルバムが届きました。トム・ミッシュや FKJ らのアーティスト同様、ストリーミングを通じて多くのリスナーを獲得し、デビューに至ったブルーノ・メジャー。まさに新世代型のミュージシャン。

実は当時、アメリカの某メジャー・レーベルとレコード契約をしていたんだけど、作品を出す前に結局切られちゃってね。曲だけが手元に残ったから、だったら自分でリリースしようと思い立ったんだ。出来はいいと自負してたし、世に出す価値のあるものだと思っていたからね。

基本的には DIY のアルバムで、アパートの部屋にマイク1本立てて録って。それをインターネットにアップする形で自主リリースしたら、うまくいって、結果的には世界中をツアーして回れるまでになった。だからあのアルバムは自分にとってものすごく大きなもの。曲に誇りを持っているし、自分ひとりであれを作れたということにも誇りを持っている。「A Song For Every Moon」によって僕の人生はすっかり変わったんだ。

卓越したソングライティング、親しみやすいメロディと甘いウィスパー・ボイス、それらを底上げするスタジオ・プロダクションが、今作を20年代型フォーキー・ソウルへと昇華させています。また、往年のミュージカル映画のサウンドトラックを想起させる仕上がりとなっていて、若い世代だけでなく幅広いファン層に受け入れられる音楽性です。今年のフジ・ロックに出演が決まっていたのですが、延期となって日本のファンにとっては残念ですね。

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英国フォーク名盤 ヴァシュティ・バニヤン Vashti Bunyan - Just Another Diamond Day (1970)

ヴァシュティ・バニヤンは1945年生まれ、ロンドン育ち。18歳でNYに渡り、ボブ・ディラン Bob Dylan の音楽に出会い、ミュージシャンになることを決意したそう。

Vashti Bunyan

65年、彼女はローリング・ストーンズ The Rolling Stones のマネージャー、アンドリュー・ルーグ・オールダムと出会い、彼の下でミック・ジャガー Mick Jagger とキース・リチャーズ Keith Richards のペンによる「Some Things Just Stick In Your Mind」を Decca からリリースしデビュー。しかし商業的には成功せず、それ以来ショービズを離れ、馬車で放浪の旅に。

68年のクリスマス、彼女は友人を介してジョー・ボイド Joe Boyd と出会いました。彼は60年代UKサイケの聖地 UFO Club を主催していて、フェアーポート・コンヴェンション Fairport Convention やニック・ドレイク Nick Drake、ピンク・フロイド Pink Floydのプロデュースを手掛けていた人物。彼のプロデュースでヴァシュティはデビュー・アルバムを吹き込みます。ザ・インクレディブル・ストリング・バンド The Incredible String Band と フェアポート・コンヴェンション Fairport Convention のメンバーも参加して誕生したのが「Just Another Diamond Day」。わずか数百枚のプレスでした。

1970年にひっそりとこのアルバムをリリースした後、またも音楽業界から姿を消してしまい、その後は英国の深い森に住むフェアリーのような存在だった彼女。ヴァシュティが再びシーンを賑わしたのは90年代末、唯一のアルバム「Just Another Diamond Day」が、フリー・フォーク系ミュージシャンたちの間で再評価され、それがきっかけとなって00年にCD化。長い間、音楽シーンから遠ざかっていた彼女は活動を再開し、05年には35年ぶりとなるアルバム「Lookaftering」を発表。世界中のファンを驚かせました。

Vashti Bunyan - Just Another Diamond Day

Vashti Bunyan - Just Another Diamond Day

Genre:フォーク
Style:英国フォーク、フォーク・ロック
Recording:1970
Release:1970
Label:Philips

「Just Another Diamond Day」…ヴァシュティ・バニヤンといったら、イコールこのアルバムと言っていいでしょう。2分前後の小曲が13曲並んでいるだけなのに、その13曲全てに特別な魔法がかかっています。英国フォークの深い森には妖精たちがたくさん。リコーダーやマンドリン、バンジョー、フィドル、ハープの最小限のアレンジ。30分にも満たないヴァシュティ・バニヤンの歌声が、聴く人の周りを優しく包み込みます。

「Diamond Day」のリコーダーが聴こえた瞬間、世界は紅茶の国に大変身。特別な時間が流れ出します。まるでおとぎ話の世界に迷い込んだようです。「Glow Worms」の優しい弾き語り。「Lily Pond」では妖精が現れて周りを飛び回ります。「Timothy Grub」は物語の読み聞かせ、まるで子守唄を歌ってくれているみたい。「Where I like To Stand」は言葉遊びのインプレッション。「Swallow Song」は朝靄か夕霧の中をストリングが優しく跳ねています。「Window Over The Bay」はアカペラで夏が去ったことを告げてくれます。「Rose Hip November」は季節の移り変わり。「Come Wind Come Rain」で風と雨の中を妖精たちが行進してくるのが見えるようです。「Hebridean Sun」は春がきたことを教える歌。「Rainbow River」はリコーダーの音色が虹になって小川を流れていきます。アルバムの終いが近づいてきました。「Trawlerman's Song」は魚が跳ねる。「Jog Along Bess」で妖精たちがさようならを言っています。

Vashti Bunyan - Lookaftering

Vashti Bunyan - Lookaftering

Genre:フォーク
Style:英国フォーク、フォーク・ロック
Recording:2005
Release:2005
Label:FatCat Records
Vashti Bunyan (vo, g), Max Richter (p, org, mellotron), Rebecca Wood (ob), Adem (harmonium, autoharp), Devendra Banhart (g), Adam Pierce (dulcimer), Robert Kirby (tp, fh), Marcelo de Oliviera (g)

どこかビネッテ・シュレーダーを連想させる兎のアートワークは、ヴァシュティ・バニヤンの娘ウィン・ルイス Whyn Lewis が描いたものです。

前述したように90年代以降のフリー・フォーク・ブームでの再評価を発端にして、「Just Another Diamond Day」が再発されました。それを皮切りにヴァシュティは音楽活動を再開します。アップル・マジック Apple Magic やアニマル・コレクティヴ Animal Collective への作品にゲスト参加し、そこから FatCat との契約に至ります。そして、これが驚くべきことですが、レーベル・メイトのマックス・リヒター Max Richter と繋がることになり、35年ぶりとなるこのアルバム「Lookaftering」のプロデュースをリヒターが引き受けることになったのです。そしてアレンジには、ニック・ドレイクとの仕事や、前作「Just ~」を手掛けたロバート・カービーを迎えて制作されました。

Vashti Bunyan - Heartleap

Vashti Bunyan - Heartleap

Genre:フォーク
Style:英国フォーク、フォーク・ロック
Recording:2014
Release:2014
Label:FatCat Records
Vashti Bunyan (vo, g, key), Jo Mango (kalimba), Gilon Cameron (strings), Flona Brice (strings), Ian Burdge (strings), Gareth Dickson (g), Andy Cabic (g, vo), Devendra Banhart (vo), Ian Wilson (recorder, sax)

「Lookaftering」から9年ぶりに発表された3作品目、彼女自身がおそらく最後のアルバムになるだろうという「Heartleap」。ジャケットは前作に続き、娘のウィン・ルイス。

前作でのマックス・リヒターとの共同作業で、コンピュータによるデスク・トップ・ミュージックの可能性を探求した彼女が辿り着いたのは、セルフ・プロデュースによるアルバム作り、そして時間をかけてアルバム作りに没頭するために彼女が選んだのは彼女自身の自宅だったのです。40年以上付き合いのあったアレンジャー、ロバート・カービーがこの世を去ったこともセルフ・プロデュースに踏み切った大きな要因となったようです。

Vashti Bunyan - Some Things Just Stick In Your Mind: Singles & Demos 1964-1967

Vashti Bunyan - Some Things Just Stick In Your Mind: Singles & Demos 1964-1967

Genre:フォーク
Style:英国フォーク、フォーク・ロック
Recording:1964-1967
Release:2007
Label:FatCat Records

「Just Another Diamond Day」より前、デモ曲や、キース・リチャードとミック・ジャガーのペンによるデビュー・シングル「Some Things Just Stick In Your Mind」も収録しています(この曲だけスウィンギング・ロンドンな感じで浮いています…マーゴ・ガーヤン Margo Guryan みたい)。素朴な弾き語りテイクを多数収めたファンは必聴の未発表曲集。「Train Song」も収録しています。

Vashti Bunyan - Amiralen, Malmo, Sweden July 3 2006

Vashti Bunyan - Amiralen, Malmo, Sweden July 3 2006

Genre:フォーク
Style:英国フォーク、フォーク・ロック
Recording:2006
Release:2006
Label:Unofficial

アンオフィシャルですが、06年のスウェーデンでのフェスのライブ・ブートレグです。「Lookaftering」リリースの翌年ですね。37分ほどの弾き語りで、「Just Another Diamond Day」からも歌ってくれています。

  1. Intro
  2. Hidden
  3. Diamond Day
  4. Lately
  5. Winter Is Blue
  6. Here Before
  7. Where I Like To Stand
  8. Feet of Clay
  9. Window Over The Bay
  10. Against The Sky
  11. I'd Like To Walk Around In Your Mind
  12. Warward
@ 管理人
Webデベロッパー
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